ハイコストパフォーマンス、いわゆる単なるコストパフォーマンスではなく、わりと高価格(ハイコスト)でもお得感(コストパフォーマンス)のある料理が、昨今のブームだ。以前では数千円もしたフォアグラが1000円ちょっとで味わえる立食式料理店が各地にできている話題を耳にした方も多いだろう。
そして今、さらに料理に付加価値を加える様々な試みが、行われている。その中で、特に注目なのが「列車レストラン」だ。

JR八戸線の青森県八戸駅〜岩手県久慈駅間を1日1往復する列車レストラン、それが東北レストラン鉄道「TOHOKU EMOTION(東北エモーション)」だ。「新しい東北を発見・体験」することにこだわった列車で、キハ110系気動車3両を改造し、 列車全体を「移動するレストラン」として運用。2013年10月19日から、八戸線で臨時列車 として土休日、ゴールデンウィーク、夏休み、年末年始を中心に年間150日間程度運行している。
tohoku01



午前11時5分。八戸駅を出発した列車は2時間弱かけて、久慈駅へと向かう。
tohoku02

tohoku03


往路では、人気シェフの感性と地元食材の融合が織りなすコース料理の食事が楽しめる。2015年1月〜3月は「L'AS」(表参道から南青山へ移転)の兼子大輔氏の作品だ。兼子氏は、1979年広島県生まれ。大阪「ラ・ベカス」で6年、東京・三田「コート・ドール」で3年間修業を積み06年渡仏。カオール「バランドル」で半年、パリ「サンドランス」で1年間の勤務を経て帰国し2009年より2年間、麻布十番「カラペティ バトゥバ!」のシェフを務め、2012年に独立した。

1〜3月はフレンチピクニックをテーマにしたメニュー構成で、人気シェフの感性と地元食材の融合が織りなすコース料理。

まずはアミューズブースで「フォアグラのクリスピーサンド(オレンジ味)」。「L’AS」のスペシャリテだ。レストランでは完成型で提供されるが、列車では、出来立てのサクサク感が楽しめるよう、フォアグラと生地を別々に用意。自ら生地に挟んでいただくスタイル。
濃厚なフォアグラの風味と、サクサクとしたクリスピーの食感が、一度に味わえ、味に食感にコントラストが見られる。
tohoku04
tohoku05
tohoku06


温前菜は「岩手県八幡平産豊洋卵と紅ズワイガニのブランダード」
ブランダードはフランスの郷土料理で、本来は鱈(タラ)を用いる事が定番だが、今回は紅ズワイガニバージョンだ。しかも卵黄などを自ら合わせて、マヨネーズ状に練り上げて完成させるという粋なスタイル。ほのかなチーズのコクも味にグラデーションを加えている。
tohoku07
tohoku08


そしてメイン料理の「岩手県石黒農場産ホロホロ鳥のフレンチサンドイッチ」
なにせ今回のテーマがフレンチピクニックである。「子供のころ、家族や友達と列車に乗ってサンドイッチやお弁当を頬張りながらおしゃべりをしたり、ポテトチップなどお菓子の袋を開け、それを食べながら外の移り行く風景をながめる」、そんなワクワク感をメニューしたゆえのフレンチサンドイッチ。パテ状になったホロホロ鳥はしっとりと柔らかく、フランスパンとの相性もぴったり。思いのほか食べごたえのある一品。
きのこのソテー、蕪とグレープフルーツのカクテルも添えられている。
tohoku09
tohoku10


最後にプティフールで、ジャンドゥージャ、コーヒーのマカロン、ココナッツのチュイル、サブレ。そして、食後のコーヒーなど。
tohoku11


ちなみに久慈駅には約1時間半の停車だ。もちろん駅外にも出られるので、周辺の「道の駅」やNHK連続テレビ小説ゆかりの「あまちゃんハウス」などを散策できる。
tohoku12
tohoku13
tohoku14
tohoku15

tohoku16


そして、復路は、「ホテルメトロポリタン盛岡」の熊谷 崇シェフによるデザートビュッフェが楽しめる。

まずはデザートのアソートプレートとして、りんごとサツマイモのタルト。クレームブリュレ チョコレートソース。岩泉ヨーグルトのクレームダンジュ。
tohoku17


そのあとは、ビュッフェスタイルで、2号車バーカウンターにて、セルフで好きなだけ。
洋梨のシャルロット、桑茶と抹茶のロールケーキ、カシスとマロンのババロア、三陸和くるみ カフェノア、濃厚クリームチーズケーキ、ガトークラシックショコラ クレームシャンティ、津軽りんごのジュレ 季節のフルーツとともに、岩泉ミルクアイスクリーム。
tohoku18
tohoku19
tohoku20


しかも、それらの料理を満喫できるよう、往路では、りんごの発泡酒「あおもりシードル」や山形の「高畠ワイン」(赤、白)、瓶ビールなどアルコール類をはじめ、各種ドリンクが飲み放題、復路ではソフトドリンクが飲み放題となっている。
これで、おとな10,800円(こども9,600円)。(個室利用は別途)(東京駅発着コースなど別途あり)
tohoku21


料理の素晴らしさはもちろんだが、列車レストランの素晴らしさは車窓から広がる風景もポイントだ。八戸線は三陸の海沿いをメインに運行している。八戸〜久慈というロケーションは、ウニ、アワビ、イカ、サバ、短角牛、山ブドウ、シイタケといった海や山からの豊富な食材、小久慈焼きをはじめとする焼き物や織物などの伝統工芸、日本一の白樺林を有する平庭高原、「ウミネコの繁殖地」として国の天然記念物に指定されている蕪島をはじめ、かつて文豪もその美しさを評したという種差海岸など、魅力に溢れるエリア。
景色を眺めながらゆっくりとお食事を楽しめるよう、各所ビュースポットではスピードを落として走行する。
tohoku22
tohoku23


さらに、列車自体にも、こだわりが。外観デザインは「走るレストラン」をイメージした大胆なデザイン。列車内は、ライブキッチンを中心とした全席レストラン空間。コンパートメント個室車両、ライブキッチンスペース車両、オープンダイニング車両の3両編成。各車両ごとに、福島の刺子織、青森のこぎん刺し、岩手の南部鉄など、東北各地の伝統工芸をモチーフとしたインテリアを施すなど、随所に発見があり、ライブキッチンスペースでは、調理される様子を目の前で楽しみ、味覚だけでなく、視覚も刺激してくれる。さらに、重厚感のあるサービスというよりも、細かい所作、楽しい仕掛けに心を配ったサービススタイルで、親しみやすい雰囲気を醸し出している。
tohoku24
tohoku25
tohoku26

tohoku27
tohoku28


約4年前の2011年3月11日。当地は東日本大震災で甚大な被害を蒙った。三陸の海を眺めることができるJR八戸線も、全線が不通となった。全面復旧は1年後の、2012年3月17日。そのため、地元の方々も、列車が運行するという事自体、とても嬉しいと話す。ましてや、「列車レストラン」が運行し、注目されるという事は、地元の活性化にとってもとても有益だ。そんな地元の人々の気持ちが車窓から見えた。随所で列車に向かって手を振っている人々。中には、船で大漁旗をひるがえして、歓迎してくれている。そんな風景に、思わず涙した。
tohoku29
tohoku30
tohoku31


JR東日本、利用客、地元の人々など、様々な思いが一体となった「TOHOKU EMOTION」ゆえ、2013年10月のスタートから大盛況だ。1列車約60席が、今回の1〜3月分の予約も発売初日にほぼ売り切れたほど。「食のサーカス」という言葉をヒントに、年2回担当シェフが替わり、メニュー内容は4回替わるという企画で、繰り返し利用しても飽きが来ないスタイルも見事だ。今後も継続予定ゆえ、ますますの盛況が期待できる。
tohoku32